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――渦巻くところのみ《生》在りし、か?
――それは今のところ何とも言ひ難い。だが、此の宇宙は《存在》の濃淡があるのは確からしい。例へば銀河は此の宇宙に蜂窩状、若しくは網の目状に分布してゐるのは確実だ。
――それは二つの何かの流れがぶつかる処に銀河が生まれてゐるといふ事だらう?
――へっ、つまり、過去と未来の時間の流れがぶつかって現在といふ事象が銀河となって現はれるといふ事かもしれぬ、と言ひたいのだらう?
――ふっ、さうさ。流れがなければ渦は発生しない筈だ。
――その渦が時間の流れだといふ証拠は今のところないぜ。
――当然だらう。時間は《存在》に先立つだらう?
――時間が《存在》に先立つ? それは実存は本質に先立つといふ事の言ひ換へかね?
――さう捉へて構はない。
――つまり、時間は実存に先立ち、実存は本質に先立つといふ事だね?
――さうさ。先づ、時間の流れが《存在》しなければ此の世は生まれるべくもなかったのさ。
――そして、《存在》は絶えず時間に曝されて、やがては滅する宿命にある。
――つまり、現在は過去からも未来からも決して遁走出来ぬといふからくりが此の世の本質に違ひなく、現在は絶えず未来へ遁れ行きつつ、過去を振り返る。
――しかし、《個時空》といふ考へ方を持ち出せば、未来と過去は交換可能な《もの》といふ事だ。
――へっ、それが何を意味すると思ふ?
――つまり、《存在》には必ず寿命が《存在》するといふ事だね?
――さう。去来現の総体は《存在》が《存在》する以前に、それが発生した時には寿命は決まってゐるといふ事だが、現在に《存在》する森羅万象は未来が見通せずに己の寿命は解からず仕舞ひだ。
――しかし、ちぇっ、さうするとかうかな? つまり、或る一《存在》が去来現の総体を全うし、その寿命が尽きて滅するが、しかし、《他》が《存在》する故に時間の流れは《時代》へと、更には《紀》へと連綿と続く。
――つまり、時間は《存在》によってのみ体現される何かさ。
――すると、時間は時間のみでは《存在》出来ない、と断言してもいいかな?
――多分、それで間違ひない筈だ。だが、時間は実存に先立つ。
――その時間を体現するのが《存在》といふ時間のカルマン渦といふ訳か――。ふむ。
――だから、銀河もまた、《存在》のカルマン渦の一種に違ひない筈だ。
――そして、銀河と銀河の衝突時にStar burstによって爆発的に星星が出現す事を考へると、遠い将来衝突するかもしれぬ此の天の川銀河とアンドロメダ銀河の中に《未出現》の星星が現在数多《存在》する。
――それは矛盾した言ひ方だぜ。。《未出現》が《存在》するとは、一体全体何の事だね?
――つまり、未来が《存在》するといふ事だ。
――なあ、銀河は渦を巻くとしてだ、さうすると、銀河団もまた、渦を巻いてゐる可能性はなくはない筈だといふ事かね?
――多分ね。
――すると、大銀河団は渦の複合体かね?
――へっ、此の世の《存在》全てが渦の、ブレイク風に言へばMill(粉挽き機;私は敢へて歯車と訳す)複合体、つまり、ドゥルーズ・ガタリなどが言ふ機械といふ《存在》の様相を表象してゐるのかもしれぬのだ。
――さうすると、此の世は渦のFractal(フラクタル)な時空間といふ事だね?
――さうさ。渦が何処まで行っても渦に自己相似し渦ばかりのFractalな時空間さ。
(七十九の篇終はり)
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――何故って、簡単な事だ。ふほっほっほっほっ。科学は神の摂理以上の公理や法則を見出せっこないと既に相場が決まってゐるぢゃないかね。
――神の摂理を超える科学的な論理か……。ふむ。
――所詮、人間の「智」は神には遠く及ばぬといふ事ぢゃよ。ふほっほっほっほっ。
――しかし、それでも、へっ、人間は神に敵はぬと知りつつも、此の世のからくりを解き明かしたい欲望を持った《存在》として此の世に生まれ出てしまった。
――ほう、それは初耳ぢゃ。人間が「智」でもって神に対峙するか、馬鹿らしい、ふほっほっほっほっ。
――何故に馬鹿らしいと即断できるのかね?
――人間の「智」は高が知れてゐるからぢゃ。
――ちぃっ、ほら、此れでも喰らへ!
と、私は再びそれが何もない空を切るだけで「だん」と畳を殴る事にしかならない事を十分に承知しつつも、何としても神神しい光を放ってゐるその翁目掛けて殴り付けずにはゐられなかったのであった。
――ふほっほっほっほっ。何をまた無意味な事を繰り返すのかね。人間と言ふ《存在》はどうも断念する事が下手糞な生き物ぢゃな。所詮、お主には虚空は殴れぬよ。
――へっ、何ね、無意味な事を十分承知しながらも、人間っていふ《存在》は、此の世に《存在》しちまった以上、どうしても無意味な事をやらなければ気が済まぬのさ。
――ふほっほっほっほっ。それで何か解かったかね?
――いや、何も。唯、俺は確かに此の世に《存在》してゐる事を否が応でも自覚させられ、そして、その様に己を認識せねばならぬ《存在》として、俺は確かに《存在》してゐると自覚する外ない《存在》として《存在》してゐるに違ひなく、ちぇっ、Tautology(トートロジー)か、まあ良い、そして、お前は、私の幻でしかないといふ事もまた確かだといふ事が解かったぜ。
――ふほっほっほっほっ。お主は確かに此の世に《存在》してゐると己を自覚若しくは認識し、そしてどの口が言ふのか、わしはお主の幻でしかないぢゃと。ふほっほっほっほっ。それではお主は全く納得出来ぬのぢゃらう?
――ちぇっ、何でもお見通しか。その通り、私は全てが納得出来ぬのだ。私が《存在》してゐると私が認識してゐるといふ事は、もしかすると全て私の思ひ過ごしか?
――さて、それはお主が決める事ぢゃ。
――へっ、私は確かに言った筈だよな。私が此の世に《存在》してゐると認識してゐるのも、もしかすると私の気のせいかもしれぬと?
――だから?
――私は実際、ちぇっ、詰まる所、此の世に《存在》してゐるのかね?
――確かに《存在》してゐる筈ぢゃ。
――筈ぢゃ?
――さう、筈ぢゃとしかわしには言へぬのぢゃ。
――すると、やはり、私の《存在》は私の気のせいの可能性がないとは言ひ切れぬのだな?
――だとして、さうだとして、それが何だといふのかね?
――いや、何、単なる愚痴だ。
――cogito,ergo sumぢゃて。
――詰まる所、人間、否、《存在》が神に対して詰め寄れた結果が今も尚、デカルトのcogito,ergo sumか。はっはっはっ。ちやんちゃらおかしい、ちぇっ。
――まあ、短気は損気ぢゃぞ。
――しかし、《存在》は未だに「思ふ」といふ事でしか己の《存在》を肯んじないんだぜ。これ程の笑ひ話があるかね?
――それぢゃ、お主に訊くが、お主が《存在》すると認識する、つまり、「現存在」としてのお主の意識は、さて、確かに《存在》する《もの》として扱っていいのかな?
――え? 一体何が言ひたいのかな?
――つまり、お主の意識は、果たして、此の世の《もの》と規定するその根拠をお主は認識してゐるのかね?
――へっ、つまり、それは、私の意識がその意識の《存在》の根拠を吐露出来るかといふ事だらう?
――さうぢゃ。
――ちぇっ、それがはっきりと断言出来れば誰も悩まないだらうが!
(六の篇終はり)
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